「21世紀の国民医療」に対する日本医師会の見解
1997.8.29
A.総論的事項
1.「良質な医療と国民皆保険制度の確保」と口先だけはよいことを言っている
っものの、国自らが率先して血を流し、痛みを分かち合おうという意気込みもなけ
れば、その姿も全く見られない。社会保障は国自ら率先しなく誰がやろうとす
るのか。
2. 更に又、21世紀少子高齢社会の到来を間近に控えて未来社会を綿密に分
析し、真に国民の立場に立った21世紀のあるべき医療・保健・福祉の姿も政策も
提示しないで何の抜本改革が出来るというのかと言いたい。
3. 今日の修復し難い財政破綻を来した厚生行政の失敗について何ら反省する
ことなく、むしろ、その責任を専ら医療関係者や国民にすり替えようとしている厚
顔ぶりには驚きを禁じ得ない。
4. 国民の医療に対する不信不満を利用して、その全ての責任を医療関係者に
なすりつける卑劣なやり方は到底容認出来ないものである。そのことを言う前に
社会保障政策における国自らの責任と義務を率先して果たすべきではないか。
B.医療提供体制について
1. 大病院の外来集中の是正に対して抜本的に見直しへの努力が全くみられ
ない。その具体的方法も何ら示されていない。
2. 公私病院間の格差が拡大し、その是正が急がれているのに、その方策は何
も示されずに至っている。
3. 保険者の機能強化を言う前に、保険料の適正な使用に専念すべきである。
即ち、不要な不動産の蓄積など保険料の目的外使用は目に余る ものがあり、早
急に是正すべきである。
4.医療現場でのインフォームドコンセントをより進めるのは患者との 信頼関係を
より強めるためのものである。情報提供は我々も積極的に進めるべきである。し
かし、患者のプライバシーの尊重と無用の誤解 を避けるためには慎重に対応す
べきである。
5.活力ある地域医療の展開のためには、現行の膨大な医療に係わる諸々の規
制を大巾に緩和しなければならないが、そのことについては何も触れていない。
C.薬価制度
1.現行の薬価制度について中医協の建議も無視して何ら改革の手もつけずに
今日に至っているが、現行薬価制度さえ無くすれば薬価制度改革が一挙に成功
するかの如き幻想を抱いている。
2.今回の改革を行えば、薬価制度の世界でも新しく混合診察を実現さ せること
になり大きな問題である。即ち、保健適用部分と自由診療部分(非適用部分)との
混合診療が成り立つこととなる。
3. その患者負担は保険適用は定率負担であり、非適用(自由診療)部分は全
額自己負担という二重薬剤負担となる。
4.今回の改革で自由価格制となるため薬価は青天井となる。公的保険システ
ムに青天井の価格を導入してよいのだろうか。貧しい患者には 高価薬は使用出
来なくなる。
5.薬剤は医師が選択するもので、その選択理由の第1は品質と安全性 であり、
安価だから選択することはない。
6.昨今の医療界では薬剤については「安かろう悪かろう」が常識となっており、後
発保険医薬品の安全性、品質の信頼性が保障されていない。このような状況の
中で改革案が実施されるとトータルの薬剤費は暴騰することは必至である。
7.購入価格での請求、一物多価の処理、自己負担分の説明、グルーピングの
方法など難問山積みの中で医療機関窓口は耐えられなくなることは必至である。
8.平成12年までの間にも改革は進めなければならない。平成7年の中医協建議
に基づいて長期収載せ医薬品価格の見直しを始めとする薬価適正化政策は一
刻もゆるがせに出来ない。
9.9月の健保法改正による薬剤費負担の新しい制度によって、全国の医療機関
窓口はその繁雑さにほとほと困り果てている。
10.一刻も早くこの新制度を無くすべきである。
D.新しい診療報酬体系の構築
1.巷間、出来高払いの弊害のみが誇大に強調され過ぎている。我々は 出来高
払いのメリットについてはそのデメリットを遥にしのぐ大きな評価を与えてもよいと
考えている。
2.定額払いの拡大は支払側には都合のよいことであろうが、医療を受ける患者
の立場からは多大の損失であり、時には人権侵害にもなりかねないものである(
疾病に応じた医療が受けられない)。命と健康に係わるものであるだけその影響
は深刻なものである。
3.殊にプライマリーケアを担当する外来医療にあっては、出来高払いは不可欠
であり、もし定額払いが導入されれば病気の早期治療への道は閉ざされ、国民
の健康権は著しく侵害されることとなり、患者擁護の立場からは反対せざるを得ない。
E.高齢者医療保険制度の創設
1.日医の提案と厚生省の第2案とは、@拠出金の取扱いと、A国庫負担率との
問題でやや異なるものの、ほぼ類似している。
2.何と言っても高齢者医療は保障的色彩が強くなるのは老人の特性から止むを
得ないものである。又、老人保健創設時から10余年、社会経済環境も大巾な変
化をみるとき老人の自助努力と年金との整合性もある程度は求めて行かざるを
得ないのではないか。
3.又、若年時から自らの老後に備えての自助努力による積立金制度は高齢者
医療保険制度の助成基盤の安定化に大きく貢献すること必至であり、その合意
をどう取り付けるかが今後の課題といえよう。
4.将来的に2005年位を目途に介護保険との整合を図れば最も好ましい姿とな
るが、とりあえず現段階では、この両者の保険制度の立ち上がりに向けてその統合を
念頭に.努力すべきであろう。
F.医療費適正化の推進
1.老人医療費の合理化(特に長期入院)は介護保険の創設により格段の進歩
が望めるものと期待される。
2.高齢者の増加と医学医療の進歩、国民の医療へのニ−ズを考えるとき、老人
医療費の増加は人為的にコントロールすることは極めて困難である。
3.しかし、最近の財政構造改革会議の提言はこれを無視しても財政最優先策を
貫徹しようとしており、医療関係者としては国民の命と健康を守る立場上、断固反
対せざるを得ない。
4.とにかく不正請求等の明らかなものは一罰百戒でも臨むべきで あり、療養担
当規則等については十分な行政と我々との理解と納得を得るべく指導体制を充
実すべきであると考える。
1997.9.30記