特別インタビュー
急増する有床診の療養型病床群
どうなる! 「介護型.医療型」の区分
日本医師会常任理事 西島秀利氏に聞く
5月27日に発表された厚生省資料「医療施設動態調査」月報によると、有床診療所の
療養型病床群が急増している。
具体的には、昨年10月1,139床、11月2,304床、12月4,162床と増え続け、今年1月
には6,205床、2月末には7,681床となっている。
こうした動きは今秋10月、介護保険適用の療養型病床群の手上げによる申請を視野に
入れたものであるが、ここで問題になるのが、療養型病床群として介護保険適用の道を選んで
果たして間違いはないのか、ということである。
折しも5月29日、徳島県で行われた平成11年度中国四国医師会連合総会第一分科会で
、助言者として出席した日本医師会常任理事.西島英利氏は、「有床診の療養型病床群の
介護保険対応は柔軟に」と発言した。
今回のインタビューは、それを受けてのものである。
《利用者を第1に考えた施策を》
−ここのところ、介護保険をにらんで有床診の療養型病床群のベット数が急増していますが、
介護報酬の細かい部分が明らかにされない現在、10月の申請に向けて不安を抱えている
有床診療所が多いかと思いますが。
西島:
病院の療養型病床群や有床診療所の療養型病床群が「今後どうなっていくのだろう」
という不安を持っておられるのは確かです。
−その意味で、先日の中国四国医師会連合総会の「介護保険」分科会での西島先生のご発言が
クローズアップされていますが。
西島:
中国四国の各県医師会の担当理事の先生がお集まりになった分科会ですが、
出席者の方々の最大の関心は、「果たして療養型病床群になったものの、医療型のままで
いたほうがよいのか、介護型を選択したらよいのか」ということでした。あるいは全体を介護型にする
のか、介護保険対応型の療養型病床群と医療保険対応型の療養型病床群をどういう形で自院に
振り分けていくのか、経営者にとっては非常に大きな課題になっています。
−選択するためのデータが十分にない中では当然の不安かと思いますが.....
西島:
民間の病院や診療所にとって、患者さんへ良質な医療を提供し続けるためにも、経営が成り立たな
くてはいけないわけです。
建物は改造した、人は雇った、けれども利用者はいない、では困るわけです。しかも平成9年の医療法
改正で診療所の療養型病床群の設置が可能となり、多数の診療所が療養型病床に転換しましたが、
介護型と医療型の給付基準が明確ではありません。皆さんが苦慮するところだと思います。そこで
分科会では、そうした皆さんの不安にこたえ、日本医師会としての考えをお話したわけです。
-療養型病床群の医療保険対応型と介護保険対応型では、対応すべき患者さんはどのように変わって
くるのか、そこを分かり易くご説明下さい、
西島:
厚生省と日本医師会との話し合いの中で確認されているのは、療養型病床群の医療型で対応
するのは病状が安定した長期療養患者のうち、糖尿病患者、慢性呼吸器疾患、悪性腫瘍の末期患者、
神経難病患者、人工透析を必要とする患者等で、日常的に複雑な医療処置や検査等、密度の濃い
医学的加療及び治療を必要とする疾患の患者、それから急性後期で積極的なリハビリが必要な患者、
40歳未満の長期療養者、もしくは40歳〜64歳の特定疾病以外の長期療養患者といったケースが
基本的に考えられます。
−では介護保険適用療養型病床群は?
西島:
介護保険適用療養型病床群に関しては、当然に65歳以上の要介護状態の患者さん、それから40歳
〜64歳の特定疾病の患者さんが適用の対象になります。
しかし実際には、65歳以上の患者さんでも医療ニーズが高い患者さんはたくさんいらっしゃるわけです。
先ほど申し上げたようなくくりだけでは区別できない部分があるわけで、その振り分けの判断は基本的
には医師の裁量権であろうと考えています。一番大事なことは、利用者にとって、それが一番よい選択
なのかどうかということです。
−どういう場面で、どういう形での“医師の裁量権”をお考えでしょうか。
西島:
療養型病床群は医療機関ですから、実際に患者さんがこられるわけです。そのときの振り分けです。
医師はゲートキーパー的な役割を求められていると思います。
−先ほど、西島先生は、患者さん、利用者の利益ということをおっしゃいましたが。
西島:
そうです。
療養型病床群の介護型.医療型の区分を行政的にあまりにもタイトに決めてしまうと、実は
医療ニーズがあるのに医療保険でやれないというケースが出てきてしまいます。それでは患者さんの
利益に反するわけです。
ですから患者さんが医療機関にきたときには、患者さんの利益の視点に立ってゲートキーパー
としての裁量権を持って正しい振り分けを行いたいということです。
《要介護3を中心に考える》
−10月からは、現実に介護保健施設としての申請が始まりますが、それぞれの医療機関が
「申請するか否か」の判断をするときに、どのような検証が必要でしょうか。
西島:
まず療養型病床群を有床診だけでなく、病院を含めた医療機関として考えてみましょう。
老人保健施設や特別養護老人ホーム、これらはすべて介護保険制度に移ることが認められるわけです。
療養型病床群については、介護保険型と医療保険型の両方があります。
そのとき医療機関はどういう選択をするかの決断を求められるわけです。
しかし、まだ現実的に何もスタートしていません。今まさに医療保険福祉審議会の介護給付費部会で
介護報酬をどうするか検討が行われているところです。
−介護給付費部会の席では、医療保険との整理が大きな課題となっていますね。
西島:
はい。
ですから今現在は介護型を選択したほうが自分の医療機関にとってよい結果を生むのか、
それとも医療型を選択したほうがよいのか、判断するための過去のデータがないのです。
そもそも何事にもいえることですが、初めて物事をスタートするには馴らし運転が必要だということです。
療養型病床群の医療保険対応、介護保険対応の振り分けにも、ある程度の馴らし運転の期間が
必要だと考えます。
そこで、いよいよ有床診療所の療養型病床群についての話に移りますと、同じ療養型病床群であっても
有床診の場合は病床規模が現行19床以下ですからさらに病院とは異なる問題も生じます。
−小規模ベッド数なるがゆえの問題ですね。
西島:
そうです。
19床以下のベッド数をさらに細分化して、この部屋は介護保険対応、これは医療保険対応と分けて
固定化してしまっては、有床診の経営は成り立たなくなります。
そこで、少なくとも有床診の療養型病床群に関しては、医療保険型でも介護保険型でもどちらでも
適用できるようにする必要があるでしょう。
こういう主張を今、日本医師会は厚生省に投げかけています。
こういったお話を5月29日徳島の分科会で皆さんにしたわけです。
−そうしますと、日本医師会のお考えとしては、有床診の療養型としては色を付けるべきではないと?
西島:
分科会でもそうあってほしいという声が圧倒的でした。
それは当然だと思います。
−分科会での西島先生のお話には「有床診の受け入れ可能は要介護3程度まで」ということが
あったとお聞きしますが?
西島:
有床診療所のマンパワーは看護6:1、介護6:1です。
そうしますと19床であれば看護婦、介護者それぞれが4人必要となります。
たとえ入院患者が19床の半分以下であっても、それだけのマンパワーは必要です。しかも合計8人で
昼夜の体制を組まなくてはなりません。
その場合に夜に割けるマンパワーがどのくらいあるか等々を考えれば、当然のこと、重度の患者さんは
看られなくなります。
−介護保険、医療保険の両方を認めてほしいと主張する代わりに、きちんと医療の質も考えて
いるということですね。
西島:
もちろん要介護4,5まで入れられてもかまわないのですが、有床診で対応できるのはマンパワーの点
から3ぐらいまででしょうねということです。
もう一つ、このからみは医療保険と介護保険の報酬の問題でもあるわけです。
−といいますのは?
西島:
介護保険の報酬と医療保険の報酬の違いは、介護保険は要介護度で報酬が決まって
くるということです。
−傾斜配分されるわけですね。
西島:
そうすると、介護保険では、重度の要介護4,5の患者さんがいれば報酬は大きくなります。
一方医療保険では、平均的数字で報酬が決められていくだろうと思われます。医療保険対応、介護保険
対応の両方を受け入れていくと考えると、介護保険であれば要介護3までかな、ということになります。
−では有床診でもマンパワーが大勢確保できて、高、重症度の患者さんを扱えるのであれば、
報酬が傾斜配分される介護保険のほうが経営的には楽になるということですね。
西島:
しかし、先ほど申し上げた有床診の人員配置の基本以上に増やしてしまえば、人件費が上がって
経営は成り立ちません。
病院のように病床規模が大きければ人件費が増えても患者さんの数と相殺できますが、19床の有床診では
見込める患者さんの数も限りがあります。その点が病院と有床診の違いといえます。
《
当分は馴らし運転が必要》
−そうすると、療養型病床群に転換した有床診は、今どうしたらよいのでしょうか。
西島:
慢性期を目指す場合には、まず10月の介護型施設への申請を行うよう準備することです。
その上で自医院の対応を考えても決して遅くありません。
−まず療養型病床群の有床診療所は、10月の申請時には、手をあげておきなさいと。
ただ、全部を介護保険でうめるというのは19床では難しいので、行政には有床診については医療保険、
介護保険どちらでもできるような柔軟な対応をしてほしいということを主張していくということですね。
西島:
これは当然だと思います。
何回も申し上げますが、特養、老健についてはお金の出どころが変わるということだけで
対象も65歳以上と同じです。けれども療養型病床群についてはすべての年齢について適用されている
わけですが、それが介護保険型になれば限定されるわけです。非常にリスクも大きいといえます。
闇の中で物事を決めるということは、とてもできないことなのです。
過去の実績があればいいですよ。過去の実績が何もないままシミュレーションをしろというのは
無理な話です。
ですから先ほども申し上げたように少なくとも療養型病床群については馴らし運転が必要だと言って
いるわけです。
−今、介護保険の中で療養型病床群が保険料を押し上げる、と必要以上に悪者になっているきらい
がありますが。
西島:
介護保険の本来の主旨は「利用者が選択できる」ということです。
そうすると、それをベッド数を限定してしまうと利用者の選択の幅がなくなるということなのです。
そうしたら保険でなくなります。今の措置よりもっと厳しくなる。
決して野放図に増やせということでなく、利用者の選択ということを言っておきながら、選択肢の量を
制限するということに問題があるように思います。さらにいえば、他の介護施設についてもさまざまに
補助金が投入されていることを考えれば、一方的な療養型病床群の抑制には納得できません。
−療養型病床群における病院と有床診の機能分化は?
西島:
やはり医療ニーズが高い場合、あるいは重度の介護が必要な場合は病院ということになるでしょう。
一方有床診の療養型についていえば、何よりも患者さんの身近なところにあるということでしょう。
家族がゲタ履きでお見舞いができ、家族の顔がみられるところで療養できるというのは、
患者さんにとって心強いことではないでしょうか。
−では、今日本医師会が厚生省に投げかけている「有床診療養型は色を決めないで」という主張は
今後さらにどのように進めていくのでしょうか。
西島:
具体的には医療保険福祉審議会で話し合われ具体的なことが決まっていきますが、それまでには
中医協やその他関係部局との調整や話し合いも必要でしょう。
−まだこれから、ということですね。
西島:
利用者にとっていい選択は何なのか、という視点に立って、医療の分野の話として、これからも
日本医師会は、主張すべきことをしっかり主張していきたいと考えています。
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