〜外科系からみて〜
葉梨整形外科 葉梨之紀
はじめに
平成4年の医療法改正で、病院の長期入院患者に対して設けられた病棟単位の療養型病床群が、今回の医療法改正で診療所については、完全型、転換型に分けて療養型病床に移行し易い条件が出されており急性期の患者に対しては一般病床を残して療養型病床を設置出来ることになった(ケアミックス型)。これは、日医が厚生省と折衝した成果であろう。更に、診療所の療養型病床については、48時間規制がなくなり、地域医療計画に組み込まれベッドカウントされる事になった。
厚生省の療養型病床群の整備についての基本は次の様である。
1.療養型病床群の基準
1)施設基準 (平成12年3月まで)
但し、完全型の廊下巾については、特例として転換型基準で差し支えない。
病床過剰地域において、完全型のみ許可になる。廊下巾は上と同じ。
2)人員基準
医師 1人
患者対看護職員 6:1
患者対看護補助者 6:1
看護職員、看護補助者の配置は、当分の間、療養病床患者3人に対して1人でも可、その内1人は看 護職員とする。
2.診療報酬点数
1日当たりの保険点数(老人、一般を含めての最高、最低点数)
1)入院時医学管理料
一般 285〜68点 老人 257〜63点
当初は1〜2週間で減点していく。
2)入院環境料 165点
3)療養環境加算
完全型 90点 転換型 40点
4)入院医療管理料
(T)590点 (U)485点
患者対看護要員が3:1の場合は(U)を算定する。(内1人は看護職員)
病院の療養型病床群は点数が違う。更に、この他に、夜間勤務看護加算、入院診療計画加算が算定できる。
4)には、看護料、検査料、投薬料、一部の処置料が包括される。包括されていない項目は出来高請求となる。(画像診断料、リハビリテーション料、「包括された処置」以外の処置、手術料、輸血料、ギプス料、麻酔料、放射線治療料、入院時食事療養費他)
3.療養型病床群にした場合のメリット、デメリット
1)メリット
慢性疾患の長期の療養患者でベッドを埋める事ができて、経営が安定する。
一般病床を一部残せば、急性期の疾患にも対応できる。自分の専門も生かせるし、気軽に入院できる地域の身近な施設としても、維持できる。
2)デメリット
既成の建物を施設基準に適合させる為に、かなりの増改築工事が必要になるので、その資金が必要になる。(転換型も、いずれ2年後に完全型にしなくてはならない) 病床面積を1床当たり約1.5倍に広げたり、機能訓練室・食堂等の施設を新規に作るならば、ベッド数が半減することも予想される。結果としては、入院収入が減る事になる。地価の高い都市部では増築は難しい。
地域医療計画の病床過剰地域では、特例が設けられたが、増築は認められず、既成のスペースの中で完全型の施設基準を満たさなければならない。
又、増改築工事中は一定期間診療も制限され、入院治療は困難になり減収となる。その運転資金も必要となる。
地域によっては、新規に看護職員の増員は困難である。
ケア・ミックス型の病床にした場合、長期の寝たきり老人等(主として内科疾患)が入って24時間介護に手を取られると、看護職員も増やさなくてはならないし、ターミナル・ケアを扱う事が多くなると予想される。
外科系で急性期疾患を扱う場合は、救急外傷や手術後の患者と一緒の病棟では、患者への対応が大きく異なるので、患者にとって良い環境とは言い難い。
4.問題点
1)有床診療所の良い点は、自分の家の近くで、いつでも受診でき、気軽に入院できる事。普段のかかりつけ医が、主治医として、一貫して責任を持って治療にあたる事で、急性期疾患も慢性期疾患でも扱うケア・ミックスに特徴があった。療養型病床群に転換した場合、それが維持できるだろうか。単に寝たきり老人、痴呆老人の世話だけになるならば、医師というだけで、自分の専門を失い、いままでの仕事の喜びはなくなる。
2)老人病院等からの療養型病床群への転換が優先されているので、かなりの病床過剰地域で、診療所からの転換が許可されない可能性がある。
3)48時間規制が療養型病床にはなくなった為に、逆に残った一般病床が、何らかの規制を受けて急性期疾患を受けられなくなる事も予想される。
4)同じ施設基準、人員基準でありながら、療養型病床群の診療報酬の包括点数が病院と診療所で差があり、1人1ヶ月約10万円の収入差がある。
5.介護保険制度開始後の問題 (ケア・ミックスの診療は維持できるのか?)
平成12年4月から介護保険制度が実施されると、療養型病床群は、
@介護保険適用の介護療養型医療施設 A医療保険適用の療養型病床群
の2種類に分かれる。有床診療所の場合は前者、即ち介護療養型医療施設となる事を期待されている。(昨年、仙台で行われた、第10回有床診療所協議会より)
ここで問題になるのは、第1に、保険制度の違いである。第2は、要介護区分によって給付費用が少なくなり、経営が成り立つか。第3は、介護保険制度の内で必要な医療費がどの程度認められるか、である。(現行の老人保険施設の内容を例に取りながら話しをすすめる)
1)介護保険適用の療養型病床群になった場合には、ケア・マネージャー(介護支援専門員)を常時1人は置かなくてはならないし、又、要介護者の入退院を医師だけの判断でできなくなる。医師の意見書を書いて、介護認定審査の判定を、待たねばならない。(判定期間は約30日としている)介護度の認定に基づいて施設入所の可否、介護サービスの内容と、その費用(1ヶ月、6万から29万円程度)が決定されて初めて入院(入所)できる。施設では入退院の判定会議を開いて決めなくてはならない。
介護サービスの実施主体は市町村自治体であるが、その介護認定の内容について不服の場合は、県の認定審査会に、又、介護サービスに対する苦情処理は国保連合会が対応する事になっている。トラブルが多くなる事が予想され、患者・家族との相談、自治体・審査会・国保連合会等との連絡調整に追われるであろう。しかも、ケア・マネージャーは、この他にも面接調査・申請手続き代行、ケア・プランの作成等の幅広い業務が義務とされている。
2)更に、介護保険適用施設に入所した場合、原則として医療保険は適用されず、医療行為は、入所費用に包括される。要介護の老人は、100%慢性疾患(脳の循環障害による四肢の麻痺、パーキンソン氏病、慢性関節リウマチ等)を持っていると考えてよいし、ほとんどの人が常時5種類以上の内服薬・外用薬を使用し、毎日インシュリンを注射する糖尿病患者もいる。その投薬と検査は包括され、一切請求できない。更に80才以上になると、ほとんど中等度の痴呆を合併しており、介護職員を増やさざるを得なくなる。痴呆専門施設は極少ないので、転送する事は難しい。
又、困るのは、慢性疾患の急性増悪や急性疾患が合併した時で、現行の法規と厚生省の指導では、できるだけ、その施設の中で対処する事になっていて、他の医療機関に併診する事を厳重に制限している。だが、その施設のなかで行われた検査・投薬・注射・処置・手術は請求できない。(請求できるのは、画像診断と抗癌剤のみ) 併設の医療機関も同じ扱いになっている。少しでも対応が遅れれば、これらの要介護老人は危険な状態になり、食堂で他の患者達の目の前で心停止し死亡する場合もある。しかし、医療行為をしっかり行う程、入所費用はどんどん少なくなるのである。
3)介護療養型医療施設の入所患者は、他の、特別養護老人ホームや老人保険施設と違って、リハビリテーションや集団レクリエーションが中心ではなく、重度の医療を含めた介護が多くなると予想される。(施設の構造、必要とされる職員の職種の違いから) この場合、全くの寝たきり老人、重度の褥創処置、MRSA感染者等一般病院が引き取らないケースが増え、ターミナルケアも多くなると思われる。
医療紛争にも対処する必要が出てくる。