有床診療所に勤務する看護職員が認識している職場としての
有床診療所の魅力と葛藤
○ 武村雪絵(たけむら ゆきえ):松本あき子
菅田勝也:佐藤鈴子
(東京大学大学院 医学系研究科
大分県立看護科学大学)
【はじめに】
診療所にはプライマリケアの提供者として、健康管理や長期療養を視野に
入れた保健医療サービスが期待されている。看護サービスとしてもこれらの
期待に応えていくためには、看護職員を
質・量ともに充実させる必要があるが、診療所への就職を希望する若い看護
職員が少ない。その原因の一つとして、診療所看護の実態がよく知られて
いないことが考えられる。本研究は、実際に有床診療所で働く看護職員の
認知から職場としての有床診療所の特性を明らかにし、看護職にとって
魅力的な職場とするための方策を検討することを目的とした。
【方法】
S県内の有床診療所6施設に勤務する看護師6名、准看護師15名(全員女性、
平均年齢34.9歳)に対し、自由意志による参加、プライバシーの保護、研究以外
の目的に使用しないことを保証した上で一人あたりの約30分の半構造化面接
を実施した。データ−分析には継続的比較法を用い、定期的に同僚評価を
実施して分析の妥当性を高めた。
【結果】
分析の結果、有床診療所における看護の特性として、継続的で個別的なケア
提供、なんでも屋、医師を頂点とする小チーム、私的生活との両立という4つ
の抽出をした。また、社会的評価の不足、両価性という2つの葛藤の存在を
認めた。
1. 診療所では、患者との「長期的で包括的な関わり」が可能で、また
看護者には「時間的余裕と裁量」があることが多く、看護職員は継続的で
個性的なケア提供を行うことができた。多くの看護職員は、そこに看護の
面白さや魅力、誇りを感じていた。しかし、一般には診療所看護が十分に
評価されていないという社会的評価の不足も感じていた。
2. 診療所に勤務する看護職員には「限られた資源を活用しての対応」や
「あらゆる状況への対応」、「あらゆる種類の仕事」が求められ、なんでも屋
となる側面があった。看護職員の多くはこのようなオールラウンド型能力に
誇りをもっている一方で、このような能力は一般の人や専門職から高く評価
されないという社会的評価の不足を感じていた。また診療所では、一般に
高く評価される高度で先端の知識や技術が獲得できないという両価性を
感じていた。特に、診療所看護固有の能力についての学習機会や評価機会
がないために、自己の能力に自信が持てず、不安や劣等感を感じることも
あった。
3. 診療所は医師を頂点とする小チームで運営されており、職員同士が親密
な仲間関係を築き、医師も看護職員の個別的事情に配慮しながら勤務を調整
するなど、居心地がよく働きやすく、チームワークにも優れていることが指摘
された。一方で、上司であり雇用者である医師に対して看護職が率直な発言
ができなかったり、職員同士の和を重視するあまり、自由な議論や新たな試み
がなされにくいという両価性も感じていた。
4. 診療所は一人での夜勤や長時間の当直など厳しい労働条件もあるが、病院
と比べると患者数が少なく、また患者の状態が安定しているため、「仕事負担量
が少ない」ことが指摘された。さらに、医師や同僚の理解と協力によって、育児
など個々の看護職員の「生活状況に応じた仕事量の調整」がされていることも
多かった。」そのため、私的生活との両立が可能であり、看護職員は看護という
仕事を長く続けられる喜びを実感していた。
【考察】
本研究の結果、有床診療所には継続的で個別的なケア提供と私生活との両立
という看護職にとって魅力的な特性があることがわかった。しかし、なんでも屋
や医師を頂点とする小チームという特性に対して両価性を、継続的で個別的な
ケア提供やなんでも屋という特性に対しては社会的評価の不足を感じている
こともわかった。診療所看護固有の能力やサービスについての学習機会、評価
機会を設けたり、成果を示していくこと、また、率直な意見交換や新たな試みが
可能な職場環境を整えることが、診療所を看護職にとっていっそう魅力的な職場
とするために重要であろう。
2005.2.17