内藤全国会長の答申

わが国における有床診療所(一般病床)の変遷と経緯と
その存在意義ならびに現況について



 有床診療所の無床化が年ごとに著しくなづている。診療所の入院医療費も
昭和65年に国民医療費の4.2%を占めていたが、平成2年には2.6%、
平成12年には1.4%と大幅に減少し、毎年約1000の診療所が病床を閉鎖
している。その原因には、患者の大病院志向、病院と診療所との入院基本料
の格差の拡大等があるちなみに病院で最低の入院基本料(5)の、点数と、
有床診療所で最も高いI群入院基本料(1)とを比較した場合、1日1床当たり
約5000円以上もの格差があり、介護施設をはるかに下まわる低い入院
基本料が病床の運営を急速に困難にしている。加えて発足当時から現実を
無視した医療法13条の入院期間制限の努力規定に基づく診療所差別と、
入院病床数のスケールデメリット、さらに継承等にまつわる税制上の問題等、
有床診療所の位置づけに先行き不安な要素が多く、病棟の増改築や継承
にも方針一っ定められない現状である。有床診療所は、患者とその家族に
とって、距離的・心理的なアクセスの良さは何物にも替え難い。患者はその
生活圏の中で医療を受げられるだけではなく、患者と同じ地域に生活する
一人の医師が、患者の身体的既往歴にとどまらず、社会的・家庭的・個人的
背景をも知ったうえで包括的医療を実践してきた。
また、わが国の医師の養成過程からみて、それぞれの分野の専門医として
育っていることが多く、単に家庭医的なものとしてでなく、その地域での専門店
的な高度の技術を発揮しているケースも少なくない。
 今後の医療のあり方として、治療のみを目的とした医療や、自然科学としての
医学のみに基づいた医療には限界が見え、老化や不治のケースや患者の社会
環境にどう対応していくかが求められている。また、高齢者の増加とともに傷病
者は増えても疾患そのものが必ずしも多種多様化するわけではない。一般に
高齢者の多くの傷病者は、いくつかのパターン化された老人性疾患に集中
するものであり、入院が必要になっても、それらのケースがすぺて、あるいは
全期間にわたって大病院でなけれぱならないということではない。
 これからさらに増加する認知症の患者の場合であっても、生活圏内で入院し、
家族が自由かつ頻回に接触できることが、その病状に好影響を及ぼすことは
すでに広く言われている。外来診療から、必要に応じてスムーズな入院治療に
移行することが可能で、同じ医師の一貫した診療管理下に置かれる。医療事故
の多発が伝えられる中で、患者に対する責任の所在もきわめで明確といえる。
 このような特性は、プライマリ・ケアのすべての要素をあわせ持っている。また、
今後さらに医療費の抑制が余儀なくされ、その一部分については受益者負担を
求める方向にならざるを得ないとすれば、その場合に有床診療所は、費用対効果
の効率性で見直される可能性を持っている。加えてまた、急性・慢性を問わず、
診療所の外来と大病院の入院機能との間には、病院への入院待機や退院後の
後療法を含めて、現在の有床診療所で対応できる幅広い患者層が現実に存在する。
厚労省は昭和23年以来、占領軍の指導によって作られた実態に沿わない医療法
13条を永年放置し、診療所の病床は緊急避難的なものとして、48時間収容の
努力規走を据えたまま動かしていない。
 有床診療所の当事者は、入院患者を医師自らの責任で管理し、法的な要求が 
無くても必要な看護職を配置して来た。また、有床診療所は平成12年まで病院と 
全く同じ構造設設備規準であったし、人員配置についてはその多寡により健康
保険法上の診療報酬に差をつけて間接的に管理評定されてきた。また安全基準
その他管理の規制にも多くの有床診療所はこれに対応して来た。特に高度専門
医療を要する揚合や複数の医師を要する手術など、さらに止むを得ない医師不在
時の対応は病診連携、診診連携、医師会組織内での連絡を密にして責任ある
対応につとめてきた。それ故に有床診療所こ対し、医療法制定以来過去60年に
わたり社会的なクレームはついておらず、「ゆうしょうしんりょうしょ」の概念は定着
しないまま、患者側から「びょういん」とよばれて、それなりに受け入れられて来た
実績を持っている。当局でさえもはじめから有床診療所の実態を認識しており、
健康保険法の上では長期に亘る入院料を当初から診療報酬に設定している。
 以上の通り、今や社会的にみて、この48時間という収容期限の努カ規定は、
超非現実的、異様な存在となっている。看護職による静脈注射も事実実績を
認めて合法化したように、医療提供体制の整備が見直され、規制緩和が叫ば
れている今、医療法13条は廃止されるべきものである。
 最後に、『有床診療所は、地域に密着し、外来・入院の医療が信頼し得る一人
の主治医とその施設で効率的に対応され得る身近で、かり必要不可欠な医療
資産である。わが国特有の、この有床診療所存続のために格段の御配慮を、
是非御願いしたい。』と訴えた全国の方がた128,590名の署名による請願が、
昨平成16年11月5日国会に提出され受理されたことを御報告し、有床診療所
に対する新たな御認織と暖かい御理解とを賜わることを、医療部会委員各位に
心より御願い申し上げる次第である。
2005.12.23